軽い気持ちだった。
深夜の静まり返った部屋で、ふとした好奇心から開いた掲示板。
そこに並ぶM男募集のスレッドは、どれも半信半疑だったし、
正直「どうせ冷やかしだろう」と思っていた。
なのに――
送信ボタンを押して数分後、返事が届いた。
「…え、もう?」
戸惑いと期待がないまぜになった気持ちのまま、やりとりは進んでいく。
LINE IDを交換し、NG事項や希望、条件をやりとりした。
向こうの希望は「遠隔調教」が基本で、
「信頼関係ができたらリアルもあり」という、現実味を帯びた一言が返ってきた。
緊張が走る。
けれど、どこかで「ここまできたら…」という気持ちが背中を押した。
その数分後、LINE通話の着信音が鳴った。
震える指で応答すると、女性の声が響いた。
「じゃあ、いまからオナニーしてみてくれる?」
あまりにあっさりした命令に、心臓が跳ねた。
声は明らかに女性で、作り物ではなさそうだった。
今まで「こういうのは、裏で男がやってる」と思っていた自分の警戒心が、少しずつ緩んでいく。
やがて通話はビデオに切り替わり、
僕は下半身をさらし、指を動かし始めた。
…けれど、なぜかイケなかった。
画面越しの視線、初めての羞恥、どこか現実味のなさ。
興奮と緊張が入り混じったまま、通話は終了した。
「明日、もう一度しようか」
彼女はそう言って、次回の約束をしてきた。
通話が切れたあと、
部屋にはいつもの静けさだけが戻ってきた。
ひとりになって、自分の中に残った興奮を処理しようかとも思った。
でも――もし、明日もまたイケなかったら…。
その不安が、手を止めさせた。
もやもやを抱えたまま、僕は布団に潜り込んだ。
そして考える。
この体験は「遊び」だったのか、「何か」の始まりなのか。
掲示板の向こうにいたその声は、僕の中で、まだ消えずに残っている。